本ゲームの会話採点は、6つの評価軸によって構成される。
本文書は、各軸の設計根拠と参照した研究を記述する。あわせて、各軸が何を測っていないかを軸ごとに明示する。
本ゲームの点数は会話能力の測定値ではない。本ゲームが定義した採点基準に対する適合度である。以下に記すのは、その基準がどのような研究に基づいて設計されたかである。
本文書中の「操作化」は、研究が記述した現象を、採点可能な判定条件に変換する作業を指す。操作化はすべて開発者が行ったものであり、研究の主張そのものではない。
1. 測定範囲外の事項
会話能力の診断ではない
低得点は会話能力の不足を意味しない。高得点も日常の会話能力を保証しない。本ゲームは会話練習用のゲームであり、能力測定・適性診断の道具ではない。
採点基準は交換可能である
本ゲームの採点軸は、交換可能な「採点カセット」として実装されている。プレイヤーはセッション開始時にカセットを選択し、別の基準で採点を受けることができる。
したがって、本文書が記述する6軸は会話を評価する唯一の基準ではない。複数ありうる切り取り方の一つを、ゲームとしての遊びやすさを優先して実装したものである。カセットが増えれば、同一の会話に別の点が付く。
参照研究はすべて人間同士の会話を対象としている
本ゲームはAIキャラクターとの会話である。参照研究はすべて人間同士の会話を対象としている。人間相手の会話で観察された現象がAI相手の会話に成立する保証はない。この不一致は6軸すべてに及ぶ。
採点は会話に参加していないAIが行う
各ターンの採点は、会話ログと採点基準を読んだAIが行う。人間の採点者による基準ではなく、標準化された心理尺度でもない。同一の発言を同一の場面で採点しても点数は変動する。
採点するAIは会話に参加していない。ログを外部から読んで点を付ける。本ゲームの点数は第三者の観察による評価であり、会話相手が実際にどう感じたかを測るものではない。
モデル更新により基準は変動する
採点に使用するAIモデルが更新されると、同一の基準文でも点の付き方が変わる。過去のスコアと現在のスコアの厳密な比較はできない。
キャラクター間・モード間でスコアは比較できない
採点はキャラクターの性格情報を参照せずに行う(対話相手によって採点が変動しないための設計である)。その帰結として、話しかけにくいキャラクターと話しやすいキャラクターの難易度差は点数に反映されない。キャラクターAでの70点とキャラクターBでの70点は同義ではない。対人戦とソロプレイでも採点系統が異なる。
配点比率に研究的根拠はない
受容80点、連結70点、問いかけ60点、開き50点、場づくり40点、自分語り最大-40点という配点は、ゲームとしての数値バランスを取った結果である。「受容は場づくりの2倍重要である」と示した研究は存在しない。配点は設計上の選択である。
2. 6軸の設計根拠
各軸について、以下の4項目を記述する。
- 参照研究
- 研究が報告している内容
- 本ゲームでの操作化
- 参照範囲の限界
第4項目を必須としたのは、研究が示す範囲を超えた主張をゲーム側で付加しないためである。
受容(0〜80点)
参照研究
- 平本毅(2011)「他者を『わかる』やり方にかんする会話分析的研究」『社会学評論』62(2), 153-171.
- Reis, H. T., Clark, M. S., & Holmes, J. G. (2004). Perceived partner responsiveness as an organizing construct in the study of intimacy and closeness.(理論的背景)
研究が報告している内容
平本(2011)は、相手が自身の経験や見解を語った際に聞き手が「わかる」と理解を表明する方法を、実際の会話データから分析している。
「わかる」は単独で発されることが少なく、多くの場合そこに理解の〈立証〉の試み——相手の話の具体的な内容に触れる発話——が付加されることで、理解の〈主張〉としての弱さが補われる。また〈立証〉の試みは、相手の語りが終わった後にしか現れない。
Reis et al.(2004)は、「相手が自分を理解し、価値を認め、思いやりをもって反応している」という知覚を応答性(perceived partner responsiveness)と定義し、親密さを構成する中心概念として整理した理論的枠組みである。本ゲームの受容・問いかけ・場づくりの3軸は、この応答性を異なる角度から操作化したものにあたる。
本ゲームでの操作化
〈主張〉と〈立証〉の区別を受容の採点帯に対応させている。
- 「そうなんだ」「わかるよ」「大変だったね」のように、相手の発言を別の内容に差し替えても成立する応答は最下帯
- 相手の発言に現れた具体的な語・状況を拾っていれば、そこから上の帯
- 拾ったうえで相手の感情・立場・こだわりまで汲んでいれば、さらに上の帯
- 相手が言い切っていない部分を具体的な語から読み取って返していれば最上帯
根拠のない人物評(「本当は〜な人でしょう」等)を最下帯に置く判定も同一の理由による。相手の発言内容に触れていない以上、理解の〈立証〉として成立しない。
参照範囲の限界
平本(2011)は会話における理解の組織のされ方を記述した研究であり、理解の示し方に優劣を与えた研究ではない。「立証を伴う理解表明のほうが会話として優れている」という主張は含まれない。これを高得点とするのは、会話練習という目的に沿った設計判断である。
Reis et al.(2004)は雑誌論文ではなく書籍に収録された理論的な章であり、実証研究ではない。また応答性研究の実証的蓄積は親密関係・夫婦関係に偏在しており、初対面会話を対象としていない。
連結(0〜70点)
参照研究
- 串田秀也(2001)「私は-私は連鎖:経験の「分かちあい」と共-成員性の可視化」『社会学評論』52(2), 214-232.
- Machi, Saeko (2020) "Braid Structure" Conversations: Development of Informal Triadic Conversation in Japanese.『社会言語科学』22(2), 15-29.
研究が報告している内容
串田(2001)は、会話の中で自分の経験を報告しあうやりとりを会話分析の視点から分析している。出発点にあるのは、経験は聞き手が話し手と同じ形で「所有」できないという困難である。にもかかわらず経験を話すことで「分かちあい」が成立するとすれば、それはどのようなやりとりにおいてなのか、という問いが立てられている。
分析によって示されたのは次の4点である。
- 一方が報告した経験と共通の経験をもう一方が報告することは、前者の経験を理解したことを立証する手続きを構成する
- 経験を報告しあうことは、報告された経験の異同にかかわりなく、それ自体として共通の成員性を可視化する手続きを構成する
- 経験を報告しあうというやりとりは、話題を形成する発話連鎖のある独特の利用によって生み出される
- この発話連鎖が最も強い形で利用されるとき、報告された経験をもとに共通の成員性を更新する機会が作り出される
1点目の〈立証〉は、受容軸で参照した平本(2011)と同じ概念である。自分の経験を相手の経験に並べて出すことは、相手を理解したことを示す手続きでもある——これが本ゲームの連結軸の核にあたる。
町(2020)は、親しい三者による会話を対象に、他者の発話の繰り返し、パラフレーズ、協同発話(相手の未完成の発話の続きを補うこと)の3つの言語実践を分析した。これらは話者たちの発話を相互に結び付け、会話を協調的に展開させる機能を共有しており、会話の友好的な性質を強化している。
本ゲームでの操作化
自分の話を相手の文脈に接続してから提示したかを判定する。相手の発言と無関係に自分の話を開始した場合は最低帯。相手の言葉を拾い直す、言い換える、相手の話の続きとして自分の話を置く形を高く評価する。
自分の経験を出すこと自体は評価を下げない。評価が下がるのは、相手の経験との接続を作らずに出した場合である。 連結軸と自分語り減点の関係もここにある。同じ「自分の話」でも、相手の話に接続していれば連結の加点対象、接続を作らず主役を乗り換えていれば自分語りの減点対象になる。
参照範囲の限界
串田(2001)は会話分析による記述であり、接続を作る話し方が作らない話し方より優れていると論じた研究ではない。「私は-私は連鎖」が理解の立証と共-成員性の可視化を構成するという手続きの記述であって、それを高得点にするのは本ゲームの操作化である。
また、同論文が分析したのは共通の経験を報告しあうという特定の形である。本ゲームの連結軸は、相手の言葉を拾い直す・言い換える形も同じ帯で評価しており、論文が扱った範囲より広い。共-成員性の可視化も、参加者が共通の成員カテゴリーを持つ場面での現象であり、初対面の見知らぬ相手との会話に限定した研究ではない。
町(2020)が扱ったのは親しい三者によるテレビのトークショー会話であり、本ゲームの中心である初対面・二者の会話とは条件が異なる。三つ編み構造は三者以上の会話で特に観察されるものであり、二者会話への一般化はできない。本ゲームは「相手の発話を利用して自分の発話を構成する」という行動の記述として参照している。
問いかけ(0〜60点)
参照研究
- 戸江哲理(2008)「糸口質問連鎖」『社会言語科学』10(2), 135-145.
- Huang, K., Yeomans, M., Brooks, A. W., Minson, J., & Gino, F. (2017). It doesn't hurt to ask: Question-asking increases liking. Journal of Personality and Social Psychology, 113(3), 430-452.
- Yeomans, M., Brooks, A. W., Huang, K., Minson, J., & Gino, F. (2019). It helps to ask: The cumulative benefits of asking follow-up questions. Journal of Personality and Social Psychology, 117(6), 1139-1144.
研究が報告している内容
Huang et al.(2017)は、初対面会話において質問を多く投げた者ほど相手から好意を持たれること、とりわけ相手の答えを受けて掘り下げる追随質問(follow-up question)が効果を持つことを、実験と実会話データの双方から報告している。効果の経路として、質問が応答性の知覚を高めることが挙げられている。
戸江(2008)が記述するのは別の側面である。質問者が問う → 回答者が答える → その回答の後に質問者が自分の話を始める、という連鎖。分析の核心は、この質問(論文の用語では「糸口質問」)がそれ以前のやりとりと断絶している点にある。回答者はその断絶性に気づくことで、なぜここでこの質問が差し出されたのかを感じ取る。感じ取られるのは、質問者がその話題について何かを抱えている可能性、およびそれについて話そうとしている可能性である。回答の後に質問者が自分の話をする場所が確保されるのは、この可能性が働くためであると論文は結論している。
本ゲームでの操作化
相手の発言の固有内容を深掘りする質問を高く、唐突な話題転換および内容に依存しない定型的な質問を低く評価する。質問が存在しないターンは0点とする。1回の発言に質問を詰め込みすぎた場合は評価を下げる。
デフォルト採点Ⅱ(official-02)では、相手が話の流れから断絶した質問を投げた場合に、それに一言でも答えたうえで相手に問いを返したターンを最上帯とする扱いを追加している(第3節)。
参照範囲の限界
Huang et al.(2017)が測定しているのは、会話1本を通じた質問の量と、複数のターンにまたがる追随質問の効果であり、1回の発話に含まれる質問の個数ではない。 本ゲームが1発話への質問の詰め込みを減点するのは同研究の対象範囲外の判断であって、研究と矛盾するものではない。ただし裏付けもない。詰め込みを抑制するのは、会話練習として的を絞ることを促すための設計判断である。
なお Huang et al.(2017) の一部の分析には Kluger & Malloy (2019) による批判があり、著者らは Yeomans et al.(2019) で反論している。決着した論点ではない。
戸江(2008)が記述する糸口質問は、本ゲームの基本採点では低く評価される形である(前の話題と断絶しているため)。同論文は、断絶した質問が日本語会話において秩序立って成立し、相手にもそのように理解されている実践であることを示している。デフォルト採点Ⅱはこの点を部分的に取り込んだものであるが、取り込んだのは返す側の振る舞いのみであり、糸口質問を出す側の評価は依然として低いままである。
加えて、戸江(2008)が記述しているのは「回答の後に質問者が自分の話を始める」までであり、「回答者が質問で返す」形は論文の記述の中心ではない。質問返しへの加点は、論文の向きに沿って行った操作化である。
開き(0〜50点)
参照研究
- 丹羽空・丸野俊一(2010)「自己開示の深さを測定する尺度の開発」『パーソナリティ研究』18(3), 196-209.
- Sprecher, S., Treger, S., Wondra, J. D., Hilaire, N., & Wallpe, K. (2013). Taking turns: Reciprocal self-disclosure promotes liking in initial interactions. Journal of Experimental Social Psychology, 49(5), 860-866.
- Sprecher, S., & Treger, S. (2015). Personal Relationships, 22(3), 460-475.
- 相川充・大城トモ子・横川和章(1983)「魅力と返報性に及ぼす自己開示の効果」『心理学研究』54(3), 200-.
研究が報告している内容
丹羽・丸野(2010)は、自己開示の深さを4レベルに整理している。
| レベル | 内容 |
|---|---|
| Ⅰ | 趣味・好きなもの・日常の出来事 |
| Ⅱ | 過去の困難な経験 |
| Ⅲ | 決定的ではない欠点や弱点 |
| Ⅳ | 自分の否定的な性格や能力 |
そして、出現する深さは相手との関係によって変わることが報告されている。同性の初対面相手にはⅠ・Ⅱが中心であり、Ⅲ・Ⅳは初対面では出にくい。ある程度親しい同性の友人に対しては、深さのレベルによらず開示量が増加する。
Sprecher et al.(2013)は、初対面ペアを「交互に質問し合い答え合う条件(相互開示)」と「一方が開示し他方が聞き役に回る条件(非相互開示)」に分けた実験である。相互的に開示したペアは、好意・親密さ・類似性の知覚・会話の楽しさのいずれにおいても高い値を示した。あわせて、長いターンでまとめて開示するより、即座に交代して開示し合うほうが好意が高いことが報告されている。
本ゲームでの操作化
デフォルト採点(official-01)では開示のテンポのみを判定する。短く開いて相手に返す形を高く、長く自分の話を継続する形を低く評価する。
デフォルト採点Ⅱ(official-02)では、深さ×関係段階の観点を追加する。関係段階の進行に応じて、加点対象となる開示の深さの範囲が拡張される。
| 関係段階 | 加点対象となる深さ |
|---|---|
| 初対面・顔見知り | レベルⅠ・Ⅱ |
| 浅い友達相当・友達 | レベルⅠ〜Ⅲ |
| その上の段階以降 | レベルⅠ〜Ⅳ |
加点対象は段階の進行に伴って拡張されるのみであり、縮小することはない。 関係が進行したことによって開き点が下がる挙動は発生しない。
範囲外の深さの開示(初対面でレベルⅣを話す等)は減点しない。ただしその段階の加点対象にも入らない。同一の長さのレベルⅠの開示と比較すれば、開き点は低くなる。
参照範囲の限界
丹羽・丸野(2010)は質問紙調査であり、実会話データの分析ではない。比較された関係性の水準は「同性の初対面」と「ある程度仲の良い同性の友だち」の2水準のみであり、本ゲームのような多段階の関係尺度ではない。5段階への割り付けは操作化である。
同研究は「深さが関係に見合っていると相手に好かれる」を測定していない。 深さと関係性の対応を記述した研究であり、対応を外した場合の帰結について主張していない。範囲外の深さを加点対象から除外するのは設計判断である。
Sprecher et al.(2013)および Sprecher & Treger(2015) は英語圏の実験室研究であり、日本語の初対面会話を対象としていない。相川ら(1983)は自己開示と返報性の関係を扱った実験研究であり、1980年代の研究である。
場づくり(0〜40点)
参照研究
- 小林友美(2025)「母語場面と接触場面の初対面交流会話における参加者の調整行動―対人関係構築に向けた同学部所属の大学生同士の会話を対象に―」『ことば』46, 145-162.
- Reis, H. T., Clark, M. S., & Holmes, J. G. (2004).(前掲・理論的背景)
- Tasfiliz, D., et al. (2018). Journal of Family Psychology, 32(3), 355-365.
研究が報告している内容
小林(2025)は、同一学部に所属する大学生同士の初対面会話を、母語場面(日本語母語話者同士)と接触場面(母語話者と学習者)で比較している。
母語場面では、両参加者が互いに心的距離を縮めるために共通点を見つけながら会話を進行させ、共通性の高い話題を選択していた。またあいづちや反応によって相手の発話に理解・興味・共感を示しながら、積極的に会話に参加していた。
Tasfiliz et al.(2018)は、応答性の知覚とwell-beingの関係を米国と日本で比較し、両国とも応答性の知覚がwell-beingを正に予測するが、その関連は米国のほうが強いことを報告している。
本ゲームでの操作化
相手が話しやすい状態——肯定的な受け、安心感——を構成したかを判定する。共通点への言及、相手の発言への肯定的な反応を評価する。
参照範囲の限界
小林(2025)は初対面の大学生という限定条件における調整行動の記述であり、「共通点を探すほど良い会話である」という一般則を示したものではない。
応答性を理論的背景に置いているが、同概念の実証的蓄積は親密関係・夫婦関係に偏在しており、初対面会話ではない。さらに Tasfiliz et al.(2018) が示すとおり、応答性の効果には日米差が存在する。米国のデータで確認された関連の強さを、そのまま日本語の会話に適用することはできない。
自分語り(減点・最大-40点)
参照研究
- Sprecher, S., Treger, S., Wondra, J. D., Hilaire, N., & Wallpe, K. (2013).(前掲)
- 呉凌波(2026)「初対面会話における話題交換の日中対照研究―二者間会話に見るポライトネスに焦点を当てて―」『語用論研究』27, 124-144.
研究が報告している内容
Sprecher et al.(2013)が報告しているのは、開示の多寡ではなく相互性についての知見である。
- 相互的に開示したペアは、非相互のペアより好意・親密さ・類似性の知覚・会話の楽しさが高かった
- 長いターンでの開示は、即座に交代する開示より好意が低かった
- 開示が偏ったペアでは、開示する側より受け取る側のほうが好かれた
- この差は、2回目のセッションで役割を交代した後も持続した
呉(2026)は、初対面会話における日本語母語話者と中国語母語話者の談話への関与のあり方を、ポライトネスの観点から比較している。日本語母語話者は「相手話題」のフロアを多く導入し、聞き手としての配慮志向が強い傾向を示した。中国語母語話者は「自分話題」のフロアを多く導入し、話し手としての自己提示志向が強い傾向を示した。この差異は両者の対人距離感覚の差によるものと分析されている。
本ゲームでの操作化
減点対象は「自分の話をすること」ではなく、相互性が崩れた状態である。相手の話を降りて自分を主役にした話へ乗り換えたターンのみを減点する。
減点は限定的であり、以下の3条件をすべて満たした場合にのみ適用される。
- 直前の相手の発言に一言も応じていない
- 発言のほぼ全体が自分の体験談・近況・自慢で占められている
- その話を相手が求めていない
相手の発言に応じたうえで自分の話をしている場合は、減点対象にならない。相手の質問に答えた内容、相手が出した話題への感想・意見・作品評、一般論や知識への言及、相手についての言及は、いずれも自分語りとして減点しない。自分の話をすること自体は減点対象ではない。
参照範囲の限界
Sprecher et al.(2013)は英語圏の実験室研究であり、実験者が用意した課題の中での開示を扱っている。日常の初対面会話とは条件が異なる。また同研究が示すのは会話後の好意評定であり、「相互性が崩れた会話は劣った会話である」という評価ではない。
呉(2026)は日中の会話スタイルの差異を記述した研究であり、優劣を論じたものではない。 中国語母語話者の「自分話題」志向は、劣った会話としてではなく、ポジティブ・ポライトネスに基づく高関与的なスタイルとして記述されている。
したがって本ゲームの自分語り減点は、「自分の話をするのは会話として悪い」という主張ではない。日本語の初対面会話に見られる傾向へ採点を寄せた、ローカルな設計上の選択である。別の文化圏・別の関係性では、異なる採点が妥当となりうる。
さらに、前掲の戸江(2008)が記述しているのは、自分が投げた断絶的な質問に相手が答えた後で、質問した側が自分の話を始めるという連鎖である。この形は日本語会話において秩序立った実践として成立しているが、本ゲームはこれを積極的に評価する設計になっていない。断絶した質問は問いかけで低く評価され、続けて出した自分の話も、相手の回答に接続していなければ連結で低く評価される。
3. 採点カセット
本ゲームの採点軸は、セッション開始時に選択する「採点カセット」として実装されている。現行は2種である。
| デフォルト採点(official-01) | デフォルト採点Ⅱ(official-02) | |
|---|---|---|
| 6軸と配点 | 共通 | 共通 |
| 問いかけ | 深掘り質問を高く評価 | +糸口質問への返しを最上帯として扱う |
| 開き | テンポ(短く開いて返す) | +開示の深さ×関係段階 |
| 参照研究 | 戸江(2008)・丹羽/丸野(2010)を除く | 全件 |
デフォルト採点Ⅱの追加分
1. 糸口質問への返し(問いかけ)
相手がそれまでの話題から明らかに断絶した質問を投げた際、その質問に一言でも答えたうえで相手に問いを返したターンを、問いかけの最上帯として扱う。
戸江(2008)の分析において、断絶した質問は「回答の後に質問者が自分の話をする場所」を求めて差し出されている。したがって、答えたうえで問いを返す行為は、その場所をこちらから明け渡す振る舞いにあたる。これを通常の深掘り質問より高く評価するのが本カセットの設計である。
前述のとおり、論文が記述しているのは質問者側の連鎖までであり、「回答者が質問で返す」形は論文の中心ではない。この加点は操作化である。
2. 開示の深さ×関係段階(開き)
丹羽・丸野(2010)の4レベルに基づき、関係段階に応じて加点対象となる深さの範囲を拡張する(第2節「開き」)。範囲外の深さは減点しないが、加点にも算入しない。
カセット間でスコアは比較できない
あしあとグラフはカセット別に分割されている。 カセットが異なれば採点基準が異なるため、official-01での70点とofficial-02での70点は別の意味を持つ。同一の会話でも点は変わる。
4. 軸ごとの根拠の強度
6軸すべてに参照研究が存在するが、軸と研究の対応の強さには差がある。
| 軸 | 主な根拠 | 実装との関係 |
|---|---|---|
| 受容 | 平本(2011) | 論文の区別を採点帯にほぼ直接対応させている |
| 連結 | 串田(2001)・町(2020) | 論文が扱ったのは経験の報告しあい。拾い直し・言い換えまで含めるのは操作化 |
| 問いかけ | 戸江(2008)・Huang et al.(2017) | 詰め込み減点は研究の対象範囲外。糸口質問返しの加点は操作化 |
| 開き | 丹羽・丸野(2010)・Sprecher et al.(2013) | 深さの定義は論文由来。5段階への割り付けは操作化 |
| 場づくり | 小林(2025) | 初対面の大学生という限定条件からの一般化 |
| 自分語り | Sprecher et al.(2013)・呉(2026) | 呉(2026)は優劣を論じた研究ではない |
5. 採点基準の変更履歴
採点基準は複数回の調整を経ている。過去のスコアと現在のスコアの厳密な比較はできない。
| 時期 | 変更内容 |
|---|---|
| 2026年8月 | 会話の生成と採点を別処理に分離。採点側にキャラクター情報を渡さない構成へ変更 |
| 2026年8月 | 「受容」の評価帯を明示的に分割。従前は中間帯に点が集中し、上位帯がほとんど出ていなかった |
| 2026年8月 | 「自分語り」の減点を3条件すべてを満たす場合に限定。従前は相手の質問に答えた意見表明にも減点が発生していた |
| 2026年9月 | 「問いかけ」について、1回の発言への質問の詰め込みすぎを抑制する扱いを追加 |
| 2026年9月 | 採点カセット制を導入。従来の基準を「デフォルト採点」として据え置き、「デフォルト採点Ⅱ」を追加 |
6. 参照文献
| 著者(年) | タイトル | 掲載誌 | DOI |
|---|---|---|---|
| 平本毅(2011) | 他者を「わかる」やり方にかんする会話分析的研究 | 社会学評論 62(2), 153-171 | 10.4057/jsr.62.153 |
| 串田秀也(2001) | 私は-私は連鎖:経験の「分かちあい」と共-成員性の可視化 | 社会学評論 52(2), 214-232 | 10.4057/jsr.52.214 |
| Machi, Saeko (2020) | "Braid Structure" Conversations: Development of Informal Triadic Conversation in Japanese | 社会言語科学 22(2), 15-29 | 10.19024/jajls.22.2_15 |
| 戸江哲理(2008) | 糸口質問連鎖 | 社会言語科学 10(2), 135-145 | 10.19024/jajls.10.2_135 |
| 丹羽空・丸野俊一(2010) | 自己開示の深さを測定する尺度の開発 | パーソナリティ研究 18(3), 196-209 | (要確認) |
| 相川充・大城トモ子・横川和章(1983) | 魅力と返報性に及ぼす自己開示の効果 | 心理学研究 54(3), 200- | (要確認) |
| 小林友美(2025) | 母語場面と接触場面の初対面交流会話における参加者の調整行動― | ことば 46, 145-162 | 10.20741/kotoba.46.0_145 |
| 呉凌波(2026) | 初対面会話における話題交換の日中対照研究―二者間会話に見るポライトネスに焦点を当てて― | 語用論研究 27, 124-144 | 10.60414/pragmatics.27.0_124 |
| Huang, K., et al. (2017) | It doesn't hurt to ask: Question-asking increases liking | Journal of Personality and Social Psychology 113(3), 430-452 | 10.1037/pspi0000097 |
| Yeomans, M., et al. (2019) | It helps to ask: The cumulative benefits of asking follow-up questions | Journal of Personality and Social Psychology 117(6), 1139-1144 | (要確認) |
| Sprecher, S., et al. (2013) | Taking turns: Reciprocal self-disclosure promotes liking in initial interactions | Journal of Experimental Social Psychology 49(5), 860-866 | 10.1016/j.jesp.2013.03.017 |
| Sprecher, S., & Treger, S. (2015) | — | Personal Relationships 22(3), 460-475 | 10.1111/pere.12090 |
| Tasfiliz, D., et al. (2018) | — | Journal of Family Psychology 32(3), 355-365 | (要確認) |
| Reis, H. T., Clark, M. S., & Holmes, J. G. (2004) | Perceived partner responsiveness as an organizing construct in the study of intimacy and closeness | 書籍収録の章(要確認) | — |
Reis et al.(2004)を除き、いずれも査読を経た学術誌掲載論文である。
7. 免責
引用した研究の著者および学会は、本ゲームの開発・監修に一切関与していない。 本文書は、公開されている研究成果を開発者が参照し、会話練習ゲームの評価軸として再構成した経緯を記述するものであり、研究者による推薦・承認を示すものではない。
本ゲームの6軸は、会話分析・日本語会話研究・社会心理学において扱われてきたコミュニケーション行動を参照し、会話練習用に再構成したものである。点数は本ゲームの採点基準への適合度であり、会話能力の測定値ではない。