この軸が見ていること
「受容」が見ているのは、相手の話をちゃんと聞いていたかどうか、ではありません。聞いていたことが返事の文面に出ているかどうかです。
頭の中でどれだけ相手の話を理解していても、口から出たのが「そうなんだ」「わかる」だけなら、相手からは聞いていたのかどうかが見えません。反対に、相手が使った言葉を一つ返事に入れるだけで、「この人は自分の話を聞いていた」という証拠になります。
見分け方は一つで足ります。その返事は、相手がまったく別の話をしていても使えるか。使えるなら、それは聞いた証拠になっていない返事です。
元になった考え方
会話分析の研究者・平本毅さんは、相手が自分の経験を語ったあと、聞き手が「わかる」と示すやり方を実際の会話から分析しました(2011年)。そこでは、理解を示す発話が二つに分けて扱われています。
- 理解の〈主張〉:「わかる」「大変だったね」のように、わかったと言うこと。
- 理解の〈立証〉:相手の話に出てきた具体的な内容に触れ、わかったことを示すこと。
実際の会話では「わかる」が単独で出ることは少なく、多くの場合そこに具体的な内容への言及が付け足されていて、主張だけの弱さが補われている、と報告されています。このゲームの受容の採点は、この〈主張〉と〈立証〉の区別を下敷きにしています。
もう一つの背景は、社会心理学の「応答性(perceived partner responsiveness)」という考え方です。Reisさんらは、相手が自分を理解し、大事にし、気にかけて反応していると感じられることを、親密さの中心にある要素として整理しました(2004年)。受容・問いかけ・場づくりの3つの軸は、この応答性を別々の角度から切り出したものにあたります。
会話例:同じ発言への4つの返し
相手が次のように話したとします。返し方によって、受容の点の出方が変わります(数字は目安で、実際の点は会話全体の流れも見て決まります)。
- そうなんだ、いいね。いちばん低い帯どんな話にもそのまま使える返事です。パン屋の話でも、仕事の話でも成立してしまうので、聞いた証拠になりません。
- 朝7時からやってるパン屋さん、いいですね。下から2番目の帯相手の言葉(朝7時・パン屋)を拾えているので、いちばん下からは抜けます。ただ、拾ったのは表面の事実だけです。
- 引っ越したばかりで落ち着かない中に、朝の決まった楽しみがあるのは大きいですね。上から2番目の帯パン屋という事実だけでなく、それが相手にとってどういう意味を持っているか(落ち着かない時期の支え)まで汲んでいます。
- 「だけが救い」ってことは、新しい街にはまだあんまり馴染めてない感じなんですね。いちばん高い帯相手が言い切っていない部分を、相手自身の言葉(だけが救い)を根拠に読み取っています。相手が本当に話したかったことに届く返しです。
いちばん高い帯の返しは、うまいことを言っているわけではありません。相手がさっき使った言葉をそのまま持ち帰って、その言葉が指しているものを確かめているだけです。気の利いた返事を考える必要はなく、拾う場所さえ分かれば、材料はいつも相手の発言の中にあります。
点が伸びにくい返し
- 内容に依存しない決まり文句:「そうなんだ」「わかるよ」「大変だったね」など。
- 中身に触れない聞き返し:「それってどういうこと?」のように、どの話にも使える聞き返しも同じ扱いです。
- 根拠のない人物評:「真面目な人なんですね」「本当は寂しがり屋でしょう」のように、相手の発言の具体的な言葉を拾わずに人柄を言い当てようとする返し。相手の話に触れていないので、理解の立証になりません。
ゲームでの扱い
受容は0〜80点で、5軸のうち唯一、はっきりした4つの帯に分けて採点しています。上の会話例の4段階がその並びです。
- 差し替えが効く返事、根拠のない人物評はいちばん下の帯
- 相手の発言の固有の言葉や状況を拾っていれば、そこから上の帯
- 拾ったうえで、相手の気持ちや立場、こだわりまで汲んでいれば、さらに上の帯
- 相手が言い切っていない部分を、直前の発言の言葉から読み取って返していれば、いちばん上の帯
受容はほかの仕組みの入口にもなっています。受容がある程度以上とれたターンでだけコンボが1つ積み上がります。また、受容が低いターンでは「連結」と「開き」の点が弱く反映されます(受容ゲート)。相手を受け止めないまま自分の話を続けても、その話は相手に届きにくい、という考え方をそのままルールにしたものです。
80点という配点が5軸で最も大きいのは、ゲームとしての数値のバランスを取った結果です。「受容がいちばん大事だ」と示した研究があるわけではありません。
よくある疑問
- 相づちを打つのはだめなんですか?
- だめではありません。相づちだけで終わるターンは受容が伸びない、というだけです。「なるほど」のあとに相手の言葉を一つ足せば、それで上の帯に入ります。
- 相手の言葉をそのまま繰り返せば高得点になりますか?
- 拾ってはいるので、いちばん下の帯からは抜けます。ただ、表面の言葉を1つ拾っただけなら下から2番目の帯にとどまります。その言葉が相手にとってどういう意味なのかまで返すと、上の帯に進みます。
- 長く返したほうが点は高くなりますか?
- 長さは基準に入っていません。短い一文でも、相手の言葉を根拠に相手の気持ちを読み取っていれば、いちばん上の帯になりえます。
自分の返事の中に、相手が直前に使った言葉が一つでも入っているかを探してください。一つもなければ、その返事は〈主張〉だけで、〈立証〉が抜けています。
この解説の前提
点数は会話能力の測定値ではなく、このゲームの採点基準にどれだけ合っていたかの目安です。採点しているのは会話に参加していないAIで、会話の記録を外から読んで点をつけています。相手が実際にどう感じたかは測っていないので、低く出ても人柄や能力の話ではありません。
参照している研究はどれも人間同士の会話を対象にしたもので、AI相手に同じことが成り立つかは確かめられていません。また、研究が「この返し方が優れている」と述べているわけではなく、それを点数にしたのは開発者の判断です。詳しくは採点の考え方(設計根拠と参照研究)にまとめています。
参照した研究
- 平本毅(2011)「他者を『わかる』やり方にかんする会話分析的研究」『社会学評論』62(2), 153-171. doi:10.4057/jsr.62.153
- Reis, H. T., Clark, M. S., & Holmes, J. G. (2004). Perceived partner responsiveness as an organizing construct in the study of intimacy and closeness.(書籍収録の理論的な章)
研究の著者および学会は、このゲームの開発・監修に関わっていません。研究者による推薦や承認を示すものではありません。